日本人にも小さい頃からお馴染みの乳酸菌飲料ヤクルトが、中国大陸部で発売されてから今年で20年を迎えた。この20年の歩み、現在の取り組みなどについて、中国ヤクルト(養楽多(中国)投資有限公司)総経理の松浦祐司氏に話を伺った。

―ヤクルトの中国大陸事業の軌跡を教えてください。
中国大陸で事業を本格化したのは、今から20年前の2002年で、広東省広州市に広州ヤクルト(広州益力多投資有限公司)を設立し、「益力多」のブランドで販売を開始しました。その後、03年に上海で「養楽多」の販売を開始、05年に中国ヤクルト(養楽多(中国)投資有限公司)を設立、06年に上海工場で生産を開始して大陸部全土での販売に向けた事業展開をスタートしました。
おかげさまで、現在は広州ヤクルトと合わせて大陸部計50の営業拠点と6つの生産工場が稼働しています。
―20年にもわたって大陸部で乳酸菌飲料市場を牽引して来られた秘訣を教えてください。
ヤクルトは今から90年ほど前に創始者の医学博士、代田稔が「腸を丈夫にすることが健康で長生きをすることにつながる」と考えて研究を重ね、生きて腸に届く有用な乳酸菌を見いだして誕生した商品です。
私たちは、「一人でも多くの方に健康になってもらいたい」という信念の下で、中国の消費者に腸の健康の大切さを知ってもらうための科学知識の普及活動に力を入れています。中国には「药食同源」の文化がありますので、乳酸菌の大切さも知識として自然に受け入れてもらえたのではないかと思います。
―特に苦労した点、成功のポイントとなった点は。
自社で拠点を作り、社員が店舗またはご自宅まで届けるということを地道に続けてきた点でしょうか。市場の成長スピードからすると、販路を速く拡げていったほうがいいのですが、代理店経由にすると製造者としての愛情が伝わりません。私たちは乳酸菌に対する知識やイメージがない地域に、毎年3つ4つ拠点を作り、人材を育て、各地の専門家を招いたりもしながら乳酸菌飲料についての理解を広めていきました。
また広東省では一般家庭に商品を届けるヤクルトレディが2千数百名ほど活躍しています。それを中国のもっと多くの地域でやりたい、実際に飲む人へ対面で届けたいと思っています。全国的な流通網がほぼできてきた今、次の段階として「深耕」をテーマに、地域ごとの小さな店にもより細かく入っていき、人々とつながっていきたいです。なかなか投資効果が出づらく、人材面の課題もある取り組みですが、それが我々本来の形であると考えています。
―この20年間、中国大陸の市場について感じる変化は。
健康について意識する人が増え、乳酸菌の価値に対する理解と所得増加につれ、価格面で高いという声が減ってきました。同時に、以前は日本ブランドというだけで良いという印象がありましたが、近年は国内ブランドもいいじゃないかという人が増えています。競争のレベルは上がっていますね。
また国土の広さから、日本以上にSNSの発達の意味は大きいと思います。消費者はかつてTVCMで商品を見る、情報に対して受け身の形だったのが、今は自ら情報を取りに来て発信する時代です。
消費者の目が厳しくなっていますので、最後には本当に良いものが残ると思っています。
―今後の事業展開について教えてください。
より多くの消費者に新鮮な商品を提供できるよう、無錫工場の近くに無錫第二工場を建設中です。
―CSR(企業の社会的責任)体制を継続的に構築しているとのことですが、どのような活動を。
中国大陸市場参入時より、継続的に企業の社会的責任を実践するよう努めてきました。20年にCSRマネジメント体制を立ち上げ、CSRスローガンを「益路同行、肠享健康(腸の健康を保ち、ともに健康の道を歩みましょう)」に制定して多方面にわたって活動を展開しています。
現在私たちが最も力を入れているのは「人々の健康」につながるCSR活動です。これに関連のある公益プロジェクトとして、メディア「第一財経」が、子どもたちに栄養価の高い朝食を提供する「一份早餐」活動というものを行っています。私たちもこの企画に賛同し、13年から毎年5月29日、WGO(世界消化器学会)が定める「世界腸管健康デー」に合わせて子どもたちへの朝食の提供に協力しており、今年で10年目に迎えました。
また、上海科学普及教育発展基金会と協力して2016年に「ヤクルト健康教育特別基金」を設立しました。国内外の有名な専門家を招いて講演会を開催したり、上海科学技術館で「科学ライブショー」を開催して、参加者に腸の健康に関する知識を解説しました。広大な中国の中での私たちの活動はまだ小さなものですが、「点滴微光、可成星海」(小さな光が星の海になる)という言葉を信じ、一つ一つしっかりやっていきたいと考えています。
環境保全の面では、2015年から国際環境団体「上海根と芽」が主催する「百万本植樹プロジェクト」に参加して、内モンゴル自治区通遼市に毎年2000本、累計1万6000本の植樹を寄贈しています。少しでも生態システムの回復と向上に貢献できればと思います。
―10月に「第一財経」が中国食品健康連盟、ヤクルトと共同で『2022年中国新世代向け食育白書』を発表したとのことですが、この白書について教えてください。
消費者の食生活習慣、認識、嗜好、健康関連食品に期待すること(成分、ブランド、品質、価格、購入ルート)等の調査企画を実施し、まとめたものです。今回、多くの消費者が日々の食事と健康に対する基本的な意識を身につけているものの、食事の栄養構造や食品の栄養成分について、体系的かつ科学的な理解はまだ不十分であることが分かりました。
「健康中国の建設」という背景下で、食育はますます重要なキーワードになってくると思います。ヤクルトは「親子食育教室、フードキャンプ、工場見学」など、さまざまな食育、健康知識普及活動を展開しています。
また、消費者との日常のコミュニケーションツールとしてWeChatで公式アカウント「有益説益」を運営しています。ここでは、月に数回、季節の話題を取り入れながら、専門的な知識を楽しく分かりやすい内容で配信しています。
―最近地下鉄駅でヤクルトの広告映像を見ましたが、象徴的な赤色と列車、電球、ロケットなどのシーンも出てきて、生き生きとしていました。マーケティングやプロモーションの面で、取り組んでいることは。
弊社の広告を御覧いただきありがとうございます。私たちは常々、消費者との感情的なつながりやコミュニケーションを重視したいと考えていました。この広告は、「個人の小さな一歩が、人類の大きな飛躍につながる。毎日ヤクルトを飲んで、平凡ではない日々にして欲しい」という壮大なテーマを掲げて企画したもので、「不凡篇」と名付けています。
イメージカラーである赤色を基調として、元気なヤクルトが電球を灯し、都市全体を照らし、列車を走らせ、ロケットが飛び出し、そしてヤクルトが「腸」形の雪山を自由に滑り、腸の新しい活力を呼び起こす内容となっていて、消費者の皆さまに、ヤクルトの生き生きとしたイメージを視覚的、聴覚的にお伝えできたのではないかと思います。
―最後に、読者へメッセージをお願いします。
コロナ禍でストレスの多い中、ヤクルトが、皆さまの健康で楽しい生活づくりの一助となれれば嬉しいです。今後も宜しくお願いいたします。
※インタビュー及び提供資料に基づく情報はすべて取材対象者に由来しており、本誌がこれらの情報の正確性と完全性について、保証するものではありません。
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