日中の経済交流支え40年
イノベーション、DX、EC活用で進出促進
20年以上の長きにわたり中国各地に駐在した経歴を持ち、中国エキスパートの一人である天野真也氏は、昨年10月より日本貿易振興機構（JERO）上海代表処所長として上海に赴任された。創立40周年を迎えるJETRO上海代表処の今後の目標、新しい取り組みなどについて天野所長にお話しを伺った。
あまの・しんや●静岡県出身。93年ジェトロ入構、95年北京、対外経済貿易大学で語学研修。その後、長年中国に駐在。主に中国に進出する日本企業の支援のために活躍、2024年10月から現職。中国歴は約20年（北京98～02年、広州05～10年、武漢11～15年、広州15～18年、香港23～24年）。中国・北アジア課長（18～21年）、知的財産課長（21～23年）を歴任。
ー中国にご興味を持たれた理由、ご経歴についてお聞かせください。
静岡県の山間部にある同級生が5名しかいない小さな小学校で伸び伸びと育ったことが私の人生の原点にあります。中・高は静岡市内のミッション系の学校に通いましたが、その時から目は常に新しい外の世界に向いていたと思います。
高校時代はオーストラリアのブリスベンの近くの高校に、大学時代はイギリスのシェフィールド大学に短期留学しました。留学時代は中国人と接する機会が多く、それが中国に対する興味を持った最初だと思います。大学時代は国際政治、国際経済を勉強しましたが、1980年代末の中国の激動の変革時代に当たっており、深く心に刻まれています。
海外志向の強かった私は、93年にJETROに入構しましたが、95年に北京での語学留学で初めて中国に赴任したのをきっかけとし、それ以来約20年中国に駐在をいたしました。
昨年10月よりJETRO上海代表処所長として赴任してきましたが、40数名の職員と一緒に中国に進出する日系企業の抱える諸問題に共に対処していくこと、日本食品の輸出振興、中国企業の対日投資誘致などに取り組んでおります。
JETROは中国においては、8事務所（北京（調整センター）、香港、上海、大連、広州、青島、武漢、成都）を擁し、広い中国全体をカバーしております。上海代表処は上海市、江蘇省、浙江省、安徽省の地域を所轄し、6つの事業部（①進出企業支援センター、②経済信息・機械産業環境産業部、③知的財産部、④対日投資・イノベーション部、⑤EC・市場開拓部、⑥農林水産・食品部）から構成され、日系企業の関わる様々な課題に取り組んでいます。
著名書家、劉江による「以人为本」（人をもって基本とする）の書が掲げられた上海代表処オフィスにて。胸のピンバッヂは大阪・関西万博のキャラクター「ミャクミャク」
ー本年の目標、重点事項などについてお聞かせください。
4年ごとに中期計画を立てていますが、第六期中期計画（23～26年）では、4つの目標をあげております。
①資本、技術、人材が国内外で循環するエコシステムの形成・強化
④日本企業の海外展開・通商政策における共通課題等への対応
①については、日本企業と海外スタートアップ企業・大学・研究機関等との国際的なオープンイノベーション創出のためのプラットフォーム（通称J-Bridge）をつくり、日本と海外の資本、技術、人材を結び付けることでイノベーションを生み出し、日本産業の活力に資することを目指しています。このプラットフォームを活用して、関連情報を収集、協業・連絡先を見つけ、協業内容の具体化、すなわち海外企業などとの業務提携・技術提携（共同研究開発など）・出資・出資受け入れ・ジョイントベンチャー設立、M＆A、オープンイノベーション拠点設立などの要望を支援します。
JETRO上海でも中国企業の日本進出に対して、日本産業の活力に資するかという観点から個別の案件を検討し、それにかなう案件については積極的に推し進めてきました。具体的な例としては、例えば、KEENON Robotics（本社上海）は配送ロボットの製造販売をしている会社で、世界60カ国に輸出している会社です。JETROは、同社の日本法人設立に関するコンサルティング、販売代理店候補のリストアップ、人材採用、マッチングなどをサポートし、現在、日本のレストランチェーン大手にも採用されるようになり、成長を遂げております。
Shanghai JAKA Robotics Ltd（本社上海）は、3C電子・食品包装・医療機器・化学繊維・半導体・自動車部品工場などの分野で応用される協働ロボットを提供しておりますが、JETROで中国企業の対日投資の事業をサポートした成功例です。
どちらの企業も起業から量産化、海外展開までのスピードが速く、急速に成長する中国イノベーション企業の特徴を持っております。
②の農林水産物・食品の中国市場展開の促進、③の中堅・中小企業など日本企業の中国展開支援については、2022年11月から、従来の展示会出展と相乗効果を出すために、WeChatミニプログラム上にChina Japan Street（中国名称：日本商務館）という、中国バイヤー向けのBtoBマッチングプラットフォームを運用しています。このプラットフォームでは農林水産物・食品を含む約9000の日本商品を紹介していますが、出品している企業は約1300社となっております。中国市場開拓を検討している日本企業に対し、デジタルプラットフォーム上で24時間365日サポートすることが可能です。
中国市場の最近の傾向として、中国人消費者の趣向の変化により、レジャー消費、コト消費、アウトドア消費が成長しています。JETROでは、市場ポテンシャルの高い分野（ペット用品、釣り具、ウィンタースポーツなど）に注目し、オンライン・オフラインの双方を上手に活用しプロモーションを実施しました。
また、既存の商材を新しい手法によるリブランディングを通じた消費拡大を狙う取り組みでも、日本産焼酎については、2024年11月から25年1月にかけて、感度の高い消費層を対象に、上海市内のビアバー11店舗等と連携してプロモーションも行いました。今後もチャレンジを絶え間なく行うことを通じ、日本商品の販路拡大を支援します。
JETROが運営するChina Japan Street（日本商務館）のミニプログラムQR
ービジネス環境の変化に対しての関心が高まっています。
JETROでは、経済産業省と共同で「米国関税措置等に伴う日本企業相談窓口」を中国事務所含む全海外事務所に設置し、日本企業からの個別相談対応に当たっておりますので、お困りの企業様がありましたら、ジェトロ事務所にまでご相談ください。
JETROでは、中国、米国など各国の政策の動きについて、最新情報をまとめてウェブサイトで情報提供しております。是非、関心のある方は、ご覧ください。
また、中国のビジネス制度、経済安全保障などに関するセミナー、講演会等についても適宜、ご案内しておりますので、是非、上海事務所のメールマガジンのご登録もご検討いただければ幸甚です。
まず私は、人々が生き生きと働き、それぞれが持っている才能を伸ばすことができたときにはじめて、組織全体の生産性が最大化できると感じております。一緒に働いているスタッフが、JETRO上海で働くことに、個性を生かしながら、やりがいをもって業務に取組むことができることがとても大事だと考えております。中国でもただモーレツに滅私奉公の精神で働くという価値観も薄れ、仕事とプライベートのバランスをとりながら充実した日々を送ることをとても大切にしているように思います。得意なところで、仕事に貢献してもらえる職場をスタッフと一緒に築いていけたらと思います。
フラットで自由に意見、交流ができる、風通しの良い職場を作るために、組織を上げてタウンホールミーティングなどの実践もはじまっています。私も所長と呼ばれるよりも「天野さん」と呼んでいただき、いつでも気楽に声をかけてもらえるように努力しています（笑）
ーリフレッシュのためにどのようなことをなさっていますか？
散歩をすることを日課にしています。週末は、近所の公園を2時間くらい歩くこともあります。普段考えすぎることが結構多いので、散歩は何も考えない貴重な時間になっています。公園を歩きながら、人間観察をするのも楽しいですね。あまりじろじろはできませんが、公園では、いろんな人が集まって思い思いに時間を過ごされています。歌を大声で歌う人、家族連れ、カップルなどさまざま（笑）。自由で楽しい日常の息遣いを感じられるのがとてもいいです。
香港では友人に連れられて何度かハイキングに。「初心者でも楽しめるお手軽なものから、難易度が高いものまでいろんなコースを楽しむことができます」と天野氏
本年は、JETRO上海設立40周年の節目となります。私自身は、上海で仕事をはじめてまだ半年しか経っていませんが、仕事をしていると、上海には、先人が積み重ねた日中の厚い人間関係が脈々と続いているのだと感じることがあります。世界は激動していますが、ビジネス活動が平和に貢献するという信念を持ちながら、日中のビジネス交流の振興に微力ですが貢献できればと思います。
[日本貿易振興機構（JETRO）上海代表処]
住所：上海市長寧区延安西路2201号上海国際貿易中心21階
電話：021-6270-0489
URL：www.jetro.go.jp/
※インタビュー及び提供資料に基づく情報はすべて取材対象者に由来しており、本誌がこれらの情報の正確性と完全性について、保証するものではありません。
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