高倉氏は、女子サッカー不毛の時代から女子日本代表プレーヤーの先駆者として長年活躍する一方、女性初の女子日本A代表チームの監督を務め、日本サッカー界に多大な貢献をしてきた。昨年から上海の女子プロサッカーチーム監督として新しい挑戦をはじめた同氏に、過去、現在、未来のサッカーとの歩みについて伺った。
上海農商銀行女子サッカーチーム
監督 高倉麻子 氏
福島県出身。元女子サッカー日本代表選手として、アジア選手権・ワールドカップ・オリンピックなどで活躍。2009年より指導者の道を歩む。U-13/U-14の日本女子選抜監督、U-16～ U-20およびA代表の日本女子代表監督を歴任、14年にはU-17女子サッカーワールドカップ優勝。AFC 女子年間最優秀監督7回受賞（2012～15、17～19）。23年から現職
―日本を牽引したサッカープレーヤーとしての歩みをお伺いします。
サッカーは10歳から36歳までプレーしました。福島県出身ですが、学校には女子サッカーチームがなく、男子と混じってボールを蹴っていました。サッカーがただ好き、うまくなりたい一心で、空き地でボールを遅くまで蹴っていたのを覚えています。当時は女子プロサッカーリーグ、Ｗ杯もないし、オリンピック種目でもなかったので将来像もなく、ただただ目の前のサッカーに真剣に取り組んでいました。
中学校の時、もっと高いレベルでサッカーをしたいと思い、3時間半かけて週末、東京にある女子サッカークラブ「FCジンナン」に月2、3回練習に通いました。平日は男子とサッカーをしながら、週末はFCジンナンで大学生、社会人と一緒にサッカーをやりました。1985年、高校2年生の時に読売サッカークラブベレーザに入団。当時、読売にはラモスさん、北沢さんなど男子日本代表で活躍したスター選手も在籍しており、とても高い技術、戦術のサッカーをしていて、それを間近で観て感じで学び、成長したと思います。
この頃私は、日本代表選手にも選ばれ、その後1990年のアジアカップ、翌年のワールドカップ、96年のオリンピックにも出場。89年に日本初の「女子サッカーリーグ」ができましたが、光栄にも私が最初のゴールを決めました（笑）。「性別、年齢に関係なく、クリエイティブなサッカーを目指す」という私のサッカーの原点はこのような経験を通じて育まれたものだと思います。
試合中に檄を飛ばす高倉監督
―サッカー指導者のキャリアについてお話しください。
実は積極的に指導者になりたいと思ったのではなく、日本サッカー協会（JFA）の女子委員長から「育成を手伝ってほしい」とのお誘いを受け、2009年にU-13／U-14世代の指導をしたのが始まりです。私のようなわがままな性格の選手をなだめすかし、まとめていくなんて到底できないと当初は思っていました（笑）
アンダーカテゴリーのU-17／U-18、U-20代表コーチを務め、13年から監督としてU-16／U-17、U-18／U-20、U-18の日本代表を指導しました。13年にＵ16アジア大会、14年にU-17女子ワールドカップ、15年にU-19アジア大会をそれぞれ優勝するなど充実した経験もいたしました。そして、16年に日本女子代表に就任。女性として、U-20とA代表の両女子日本代表の監督を務めるという前例のないことにも挑戦しました。これまでいつも楽しいことばかりではなく、大変なプレッシャーも経験し、成功も失敗もありましたが、選手として、コーチとして、監督として、世界に挑む立場で指導をさせていただいたことにはとても感謝しています。
―23年から中国の女子プロサッカーチームの監督に就任されました。
2022年冬に、代理人および私の夫（竹本一彦：前東京ベルディベレーザ監督）を通じて、中国女子プロサッカーチーム「上海農商銀行サッカーチーム」の監督就任の打診をいただきました。コロナの時期でしたから、第一印象では、引き受けるのは難しいと思いましたが、チーム関係者と話をするうちに、条件面や環境面もしっかりしていたので新しいチャレンジをしてみようという気持ちになってきました。昨年1月から監督を引き受け、最初のシーズンが終わり、2年目に突入するところです。
このチームは、かつては首位争いをする常勝チームでした。しかし当時は二番手クラスに落ちていたのでオーナーからは是非一位に返り咲いてほしいと目標を提示されました。その結果、一昨年の4位から2位に順位をあげることができました。
優勝した武漢車谷江大はアフリカ出身のエースストライカーを擁する上、ほぼすべてのレギュラー選手が中国代表選手という充実した選手層を持っていましたので、ダントツでした。でも、直接対決では敵地で2対1のスコアで勝ちましたので、「今年こそ」という気持ちはあります。
中国ではフィジカルとスピードのある外国人フォワードを生かした速いチームや、引いて徹底的に守るチームが主流です。私は攻守の切り替えが早く、シームレスでクリエイティブな連動性のあるサッカーをやりたいと思っています。私の目指すサッカーを成功させるためには、選手の意識を変え、連動した動きをしなければいけないので時間はかかります。私が監督として招請された以上は、自主性、創造性、連動性、継続性のあるサッカーを実現しなければと思っています。
中国の選手は経済的な待遇がいいので、先端をゆく欧米サッカーにチャレンジしにいく選手が少なく、現在の潮流から少し遅れをとっています。私が選手だったころは、中国代表チームはフィジカルもテクニックもあり非常に強かったという記憶があります。もしかするとスポーツよりも勉強を優先する、中国の家庭の基本的な考え方の影響もあるかもしれません。
欧米ではリーグ、育成、協会が三位一体となって、サッカースタイルを常に刷新しながら、同じ方向に向かって発展しています。特にイングランドは女子代表チームが強くなるとともに、プロリーグの試合では7万人超の観客が入場したりと、驚くべき進歩を遂げています。私自身も中国女子サッカーに新風を起こして、中国サッカー発展への貢献が少しでもできればと思っております。
チーム所属の選手と一緒に（本人は中段左端）
リーグ戦優勝です。昨年の優勝した武漢からエースや中国代表クラスの優秀な選手がほかの上位チームに数人移籍しました。今年は上位4チーム（全12チーム）くらいの混戦になるとみています。この混戦を抜け出し、久しぶりの優勝をチームにもたらしたいですね。2025年には４年に一度の「全国運動大会」がありますが、これに優勝することがもう一つの目標です。クラブが長期に渡って成功するためにはセカンドチームであるBチームの底上げやジュニアの育成も必要です。日本人の女性コーチを3人（アシスタント、キーパー、フィジカル）採用するとともに日本人選手も獲得しました。私の目指すサッカーを徹底的に浸透させていきたいと思っています。
サッカートレーニング場も住んでいるところも郊外（青浦区）にありますので、休みの日は家でリフレッシュしています。本を読んだり、日本のテレビや映画（ドラマ、歴史もの、SFもの）を見たり静かに過ごしていることが多いかと思います。 食べることで言えば、中華料理も好きで、火鍋や貴州料理など辛いもの系も大好物です。友達を呼んで火鍋パーティーを開くこともあります。でも次の試合のことやサッカーのことが頭の中にすぐ浮かび、結局サッカーから離れられませんね（笑）
4月からリーグがスタートしました。是非上海農商銀行女子サッカーチームを応援にきてください。
[上海農商銀行女子サッカーチーム]
住所：上海市青浦区沪青平公路6888号東方緑舟体育訓練基地
メール：womanfootball@sfa.com.cn
※インタビュー及び提供資料に基づく情報はすべて取材対象者に由来しており、本誌がこれらの情報の正確性と完全性について、保証するものではありません。
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