地域密着のライフスタイル提案型店舗へ
「悔いなくやりきる」をモットーに常に前進
日本の百貨店が直接投資する上海唯一の百貨店となった、古北エリアの「上海髙島屋百貨」は、逆風の中、スタッフ一丸となり、市民に愛される地域密着店舗として長期的な視野で着実に変革を推し進めている。髙島屋の魅力と今後の変貌について、海外ビジネスのベテランである竹ケ原董事長にお話しを伺った。
上海髙島屋百貨有限公司
董事長
竹ケ原 賢之氏
たけがはら・よしゆき●1991年、早稲田大学卒業後、（株）髙島屋に入社。日本橋店出産準備用品売場に配属。2001年香港現地法人に赴任、03年香港現法社長に就任、香港並びに台北のビジネスを兼務。09年髙島屋本社企画本部にて海外店舗管理に従事、13年大葉髙島屋（台北）の副総経理に就任し、全館改装の任にあたる。16年東京新宿免税店プロジェクトMD本部長就任、19年日本商品を東南アジア（シンガポール、マレーシア、フィリピンなど）に販売する越境ECプロジェクトの任を受ける。21年より現職。中高時代（早稲田実業）はバレーボールに没頭、怪我をきっかけに大学時代は後進の指導にあたる。現在はバレーを含むスポーツ観戦が趣味。365日営業モードになりがちな中、上海での息抜きとして中国式麻雀をときおり楽しむ。
株式会社 髙島屋は1831年創業の約200年の歴史をもつ日本の大手老舗百貨店です。百貨店事業はもちろんのこと、商業不動産開発事業、金融事業、建装事業なども展開しており、日本国内外に連結子会社36社を有しております。国外では、上海のほか、シンガポール、バンコク、台北、ホーチミン、ハノイなどにおいてもビジネス展開をしております。上海髙島屋百貨は、髙島屋グループ3社出資により設立し、長寧区の古北地区に開業しました。総面積6万㎡に及ぶ大型店舗（地上7階,地下1階）であり、富裕層が多く居住する立地環境から地域密着のライフスタイル提案型店舗を目指しており、多くの皆様のご支援をいただき、創業13年目を迎えることができました。
中学、高校とバレーボールに打ち込み、今もスポーツ観戦が趣味と語る竹ヶ原氏
ー消費環境の変化とその対応についてお聞かせください。
コロナ禍を経て、消費環境が大きく変化しました。中国の消費者の購買意欲が思ったほど回復せず、EC利用がさらに進んだことから、リアル店舗の売り上げが大きな打撃を受けることとなりました。こうした環境の変化を受け、当店舗も従来型の高級品を販売する百貨店から皆様が気軽に集まっていただける郊外型ショッピングセンターへと構造を変化させてきております。飲食店舗の充実、魅力的な専門店テナントの誘致、子ども向け文化教室の開校など、まだ道半ばですが、さらに皆様にご支持いただける店舗へと一歩一歩改善をさせていただく所存です。
お蔭さまで今年に入り、ご来店されるお客様が昨年対比で二桁増と好調です。毎朝の開店時、私を含めた社員が店頭に立ち、お客様をおもてなしと感謝の心でお迎えをしております。毎日ご来店される中国人顧客を含め、弊社のスーパー、飲食店を定期利用される近隣居住のお客様が数多くいらっしゃいます。こうした皆様のご期待にお応えできるよう、食の充実化にまず注力をしております。
飲食店は全フロアーで41店舗を数えております。高級中華、ファスト中華、火鍋、ベトナムのフォー専門店、ベーカリー、各種スイーツ、特色あるカフェから漫画喫茶まで。日本食レストランは各種の専門の名店があり、充実したラインナップとなっています。例えば、ウナギ、とんかつ、焼き肉、すき焼き、そば、ラーメン、焼き鳥、鯛めしなどの専門店です。ゆったりとくつろげる大きなレストランもございます。近くにお住まいの方、そして、隣接するオフィスビルにご勤務される方など多くの皆様に毎日ご利用いただいております。今年に入って、人気の西洋カジュアルレストラン「Wagas」並びに韓国式居酒屋「清谭李上」が新店オープンいたしました。今後はファミリーでのご利用を意識した回転寿司などを誘致していく予定です。
地下一階のスーパーマーケットは、下半期に改装いたします。面積配分を変更し、お持ち帰りもイートインもできる新たな日本食の惣菜や小食のブースを数多くオープンさせます。また、先日弊社のスーパー担当が日本に出張し、新たな日本産食品の導入が決定するなど、スーパーマーケットの品揃え充実化も図ってまいります。もちろん、生鮮食品（肉、魚、野菜、果物）コーナーはそのまま残させていただきますのでご安心くださいませ。そのほか、空白となっておりました日本の生活雑貨というカテゴリーですが、新たな日系生活雑貨店の出店が決まりました。お客様に楽しんでいただけるイベントも定期的に開催させていただいております。日本のアニメキャラクターであったり、ジャパンフェアーなどの文化交流的なイベントですが、特に、中国人に人気のキャラクター展は集客効果も高く、今後も継続していきたいと思います。是非ご期待ください。
一方で、やはり日本の髙島屋のイメージは高級感とサービス品質の高さです。当社は日本の水準と比較したら足元にも及ばない、のが実状ですが、お客様が抱かれる当社へのイメージ、ご期待に少しでも沿えるよう、高級感とサービス水準は妥協することなく、維持・向上を図ってまいります。日本の工芸品や家具なども、5階の「日本館」を中心にして販売しております。これまでは伝統工芸品を中心に販売してきましたが、今後は現在風の匠工芸品や家具なども充実させたいと思っております。「カリモク」さん、「IKASAS」さんなどの日本のモダン家具はお客様の支持をいただいております。
私は1991年に大学卒業後、株式会社 髙島屋に入社しました。学生時代はバレーに打ち込んでいましたので、スポーツ用品の販売を担当したいとの希望を持っていましたが、幸か不幸か、最初の配属は東京日本橋店の出産準備用品売場という、百貨店独自運営の比較的ユニークな売り場でした。この売り場のお客様には、皇室をはじめ、有名スポーツ選手、有名芸能人など、なかなかお会いできない方々も多く、大変貴重な経験をさせていただくとともに、百貨店独自の企画・運営を自ら行うというキャリアも積ませていただきました。
2001年、髙島屋のアジア事業拡大の方針の中、私は、香港駐在の辞令をいただきました。香港事務所所長と現地法人社長を経験し、台湾ビジネスも兼務するなど、香港勤務の約9年間でグレイターチャイナのビジネスキャリアを積むことができました。13年から台湾の大葉髙島屋百貨店に副総経理として派遣され、全館改装を指揮しました。16年には、新宿に外国人を対象とした市中免税店を設立するプロジェクトを担当し、19年から越境ECを通じて、日本製品をシンガポール子会社経由でASEAN諸国に販売するプロジェクトを担当しました。そして21年、コロナの影響を受ける上海髙島屋再建のために赴任してまいりました。株式会社 髙島屋でのキャリアは34年になりますが、そのうち中華圏勤務が17年、海外の方を対象としたビジネスプロジェクトを含めますと24年の長きにわたり、海外関連ビジネスに携わっております。この経歴では、もう日本の通常の百貨店ビジネスには戻れないだろうと思います（笑）
2016年、免税店プロジェクト時代に商談で訪れた仏カンヌでの1枚
ご存じの方も多いと思いますが、上海髙島屋百貨は19年に閉店する計画を進めておりましたが、閉店直前になり、継続への大方針転換を図りました。当初より、上海髙島屋プロジェクトは12年から32年の20年計画でありましたので、初心に立ち返り、私はこのプロジェクトを完走できるよう、これまでの経験を全て出し尽くし、全身全霊でこの任にあたりたいと考えております。実は、31年が株式会社 髙島屋の創立200周年です。32年に上海髙島屋創立20年ですので、これを私並びに私の後輩の悲願としていきたいと思っております。
私の大切にしている言葉は、「やらない後悔よりやった後悔」です。マキャベリの名言ですが、とにかくやる、実行行動に移すという強い気持ちを表しています。やって失敗するほうが、やらなくて失敗することよりもはるかに良いと思っております。これは、私の経験から得た教訓でもあります。
上海赴任前はシンガポールに。著名リゾート「マリーナ ベイ サンズ」をパチリ
ー最後に読者に一言お願いいたします。
[上海髙島屋百貨有限公司]
住所：長寧区虹橋路1438号
URL：www.takashimaya.com.cn
※インタビュー及び提供資料に基づく情報はすべて取材対象者に由来しており、本誌がこれらの情報の正確性と完全性について、保証するものではありません。
END
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