労働節が終わったら、もう30℃を越える日の始まりです。気持ちの良い季節は短いのですよ。晴れ間があれば外でBBQですな。
さて今回は義父の話しを少々(笑)。
義父との関係は如何ですか? 義父を前にして緊張の一瞬を過ごした事がある方もいるでしょう。
■東京六本木で創業57年
東京は六本木の交差点から徒歩2分。
「レストラン一億」のマスターが僕の義父。御年82歳の義父は、お店でも「マスター」の愛称で呼ばれている。作務衣に雪駄でスキンヘッドの「圧」は、なかなか痺れる。
毎朝、スーパーカブに乗って、河岸(今は豊洲。以前は築地)の仕入れに50年以上通っている。そこに同行させてもらった。
決まった仕入れ先(既に3代目になっている卸屋さんもあった)を、慣れた足取りで迷宮の中を順に歩き回る。
お店の人も、向こうから歩いてくるマスターの姿を捉えると、一瞬店の中に姿を消すと、袋を取り出し、マスターが店の前に着くタイミングでサッと渡す。プロ同士の阿吽の呼吸だ。
立ち止まって話すこともない。
仕入れ先とも50年以上、二代目、三代目の付き合いだから、信頼関係でガッツリ握れている。渡される袋の中身は「特別仕様」の一品。滅多に入らないようなものは、卸の店頭にも並ばないのだ。
創作料理の一億。1968年創業。なぜ一億は生まれたのか? マスターの人生とは?
■1ドル360円の時代の片道切符
1961年。島根県から単身上京してきたマスター18歳。赤坂見附で開業したばかりのホテル・ニュージャパンの料理部に就職した。東京タワーができて数年後だ。
地元の学校を出て、右も左も分からないまま東京のホテルに就職。当時のサラリーマン平均月収が約4万円の時代(おそらく料理人見習いだと2万強だったはず)。
毎日、見たこともないような食材や料理に触れながら「世の中には、自分の知らないことがたくさんある!」と田舎から出てきたばかりの若者は、食べ物を通じて「世界の広さ」を感じ取った。
数年間、料理人見習いから始めて、同期たちが先輩料理人の厳しさに耐えられずに辞めていく中、マスターは一つの夢のために歯を食いしばって耐えた。
そして4年目。1ドル360円時代。持ち出し500ドル制限で、ロサンゼルスまでの航空券が片道で約15万円。
マスターはお金を貯め、カバンひとつ、片道切符を手にして西海岸へ飛び出した。
マスター曰く「後先の事なんか、なんも考えてなかったよ。とにかく世界を見てみたかった。体が行こうって言うんだから、勝手に動いちゃうんだよ」と。
その結果、無謀にも空港内で「誰か私を雇ってください」と看板を出して自分を直接売り込むという暴挙に出たのだが、神様が味方して、すぐに就職が決まったそうだ。
お金持ちの家のハウスキーパーとして雇ってくれたそうだ。英語も話せないのにどうやって生活していたのか?と自分でも不思議がっていた。
西海岸で暫く働いてお金を貯めて、今後は東海岸へ。そこでも同じことを繰り返して…。行く先々で同じことを繰り返しながら、なんと世界一周を達成してしまったのだ。
世界一周の料理の旅を終えたのが、1968年。帰国して見つけた、六本木で3坪のお店で、キッチン一億として営業を開始した。
「何料理のお店?」と聞かれるけど返答に困る。一応「創作・無国籍料理」に分類されているのだが、それも微妙な感じで…つまり当てはまらない。
だからこそ、人が集う。異質であることが、人を惹きつける。
今でも50年以上の常連さんもまだご健在。80代のオジサマとオバサマ。60年代後半から70年代を駆け抜け、80~90年代に成熟期を過ごしたレジェンド達が集う。
■動く
一時帰国した際、マスターから色々話を聞いた。というかインタビューをした。
57年も続けることができた一番の理由は何か?と聞いてみた。
「自分のやりたい事をやったからだろ」と当たり前のように答え、続けてこんなことを言った。
「夢とか自分の好きなことを語る人をいっぱい見てきた。けど、本当にやる奴は少ない。みんな言うだけで動かない」と。
マスターの一言が心に刺さった。聞く言葉もその時の受け手の状態によって響き方は変わるものだ。今回はここだった。
色々悩んだり、考える事ばかりで、動いていないんだ。動いているように思っているのは自分だけで、実は肝心なことをやらず、表面を撫でているだけのような自分に気が付く。
こんな当たり前のことに気が付かず、力を入れて何かをしようとしていた自分に気が付いて、思わず笑いだしてしまったほどだ。
普段から、行動できない理由は、動きたいと思っていないから、と自分の心の状態や考え方に目を向け、自分の本心がやりたいと思っていないのではないか?と、自問自答しながら、悩んでいたけど、心や考え方の問題ではなかった。
「やっていないだけ」だ。
「Dont Think. Just Do it.」だ。
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