残暑もひと段落かな。
目前には国慶節があるし、食欲の秋だし、気分がアガる……なぁんて呑気なことを言っていられるほど、ビジネス環境は厳しい。だからこそリーダーは、何か一つでもよいから明るさや希望を言葉で表現する力が大事だ。
これは精神論ではなく、社会行動学として研究・実証されていることである。いくつか紹介しよう。
「感情の伝染」:人は他者の表情や声のトーンから無意識に感情を模倣し、その場全体に伝播することが確認されている。実験では、リーダー役が明るい表情・言葉を使った場合、チーム全体の協力度と創造性が向上し、逆に否定的な表情や言葉を用いると、グループ全体が萎縮し、パフォーマンスが低下することが示された。これは一対一の面談でも、数十人規模の会議でも同様に働く再現性の高い現象だ。
他にも「リーダーの楽観主義研究」では、危機的な状況にあるチームを対象に、リーダーが①楽観的なメッセージ(希望・可能性を強調)を伝えた場合と、②悲観的なメッセージ(困難・制約を強調)を伝えた場合を比較したところ、①のチームが困難な課題に対して粘り強く取り組み、成果も高いと結論づけられた(シーゲル&アンダーソン)
今回は(も)、リーダーの言語化力について。抽象論に終わらせず、実務で再現できる形に整える。
■思考に気をつけなさい
このフレーズは、創業以来すべてのセミナーや研修、サービスプレゼンでも使ってきた頻出名言だ。あらためて紹介する。
思考に気をつけなさい。
それは言葉に変わるから。
言葉に気をつけなさい。
それは行動に変わるから。
行動に気をつけなさい。
それは習慣に変わるから。
習慣に気をつけなさい。
それは性格に変わるから。
性格に気をつけなさい。
いつか運命に変わるから。
危機的な状況にあるとき、楽観的な言葉がパフォーマンスに影響することは前述のとおりだが、その言葉の前提は思考だ。
つまり、危機的状況という「現実」をどう考えるか(=どう解釈するか)にかかっている。一つの現実をどう解釈し、どう伝えるかは人に委ねられている。
コップに半分の水が入っている現実がある場合(下図)、あなたはどちらの表現を選ぶだろうか。
A:水が半分もある
B:水が半分しかない
どちらも正しい。状況により言い方は変わり得るが、現実そのものは変わらない。選んだ言葉が、その場の行動の質を左右する。
以前、息子の算数テスト結果が35点だったとき、本人が落ち込んでいたので「35点も取れたじゃないか。これから良くなる可能性が大きいね」と励ましたところ、彼は“褒められた”と受け取り、軌道修正に手こずったことがある。それほど言葉には力があるのだと、あらためて実感した。つまり、声かけ一つにも設計思想が要る。
『要はポジティブに考えて話せば良いってことでしょ?』と短絡しがちだが、注意点が三つある。
①根拠なきポジティブ思考
現実を無視してはならない。まず事実を述べ、そのうえで前向きに捉える根拠を示す。
②抽象的な言葉の繰り返し
「頑張ろう」の連呼では人は動かない。とくに危機下では具体の指示が必要だ。励ましは大事だが、連呼は避ける。
③責任の拡散
危機下で「みんなで頑張ろう」は無責任の合言葉になりやすい。
誰が・いつまでに・何を・どれだけやるかを明確にする。
以上を踏まえ日常で使える構文を示す。「逆風→希望→行動」の三文構成だ。
一文目:逆風の事実
「原材料の高騰で粗利が圧迫」
二文目:希望の根拠
「だが代替材Bと歩留まり改善で2%は取り戻せる」
三文目:行動と締切
「今日中に代替材テスト、木曜に一次評価、金曜に意思決定」
簡単そうに見えるが、一文目の逆風の事実に感想を混ぜてしまう人は多い。「それは、あなたの感想ですよね?」と突っ込まれるので注意する。
二文目は、根拠なきポジティブにならぬよう明確な根拠を付す。計算結果の提示に限らず、リーダーとしての資源配分や覚悟も十分な根拠になり得る(むしろ後者のほうが人は動く)
最後の三文目でも、どれだけ具体に伝えるかで結果は決まる(思考→言葉→行動)
危機下では締切を通常より小刻みに刻む。これはリアルタイムな現状把握のためだけでなく、コミュニケーション頻度を高め、リーダーの熱量を伝播させるためでもある。小さな三文を積み重ねることが、やがて習慣を変え、チームの運命を静かに動かすのだ。
第四四半期は最後のダッシュの期間であると同時に、来年度に向けた助走期間だ。言葉の力を試してもらいたい。
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