

「富不過三代」(富は三代続かず)という言葉は、世界中の家族経営企業が逃れたいと望んでも、なかなかその呪いから逃れられない様子を形容している。このため、家族経営企業が100年以上の長い「老舗企業」になる割合は、企業全体の中でも極めて低い数字になっている。しかし、日本には、老舗企業が比較的多く現存する。日本商工会議所がまとめた老舗企業を研究した関連データによると、日本には創業100年を超える企業が2万5000社以上あり、世界のトップに位置しているという。同研究の分析によると、日本の老舗企業の多くは家族経営による中小企業あるいは個人経営企業だ。その数が比較的多い要因は、外部や内部の経営環境の要素のほかに、最も重要なのは家業を伝承するという思いが非常に強いことにある。
アパレル業界の中堅企業ツカキグループのオーナーである塚本喜左衛門氏は、6代にわたって家族経営企業が隆盛を保ち続ける秘訣を説明する際、精巧で美しい掛け軸の箱を取り出した。箱には「長者三代鑑」という5つの文字が書かれている。掛け軸を広げてみると、そこには上、中、下段と3つのパートの内容に分かれていた。下段には、懸命に働いて一家を成した初代創業者の図があり、中段は、のんびりと優雅に茶の湯に遊興する2代目の図が描かれ、上段には、落ちぶれた3代目が犬に吠えたてられ、路頭に迷っている図が描かれている。
塚本社長は、「この掛け軸は家族に伝わる家訓の一つで、1867年に創業してから現在まで、家業の継承者の経営の道にずっと連れ添ってきたもの」と語る。このほかにも、「意図を理解するのに苦労した家訓も伝わっている」と語る塚本社長は、見たところごく普通のガラスの容器を見せてくれた。中には、すでに使えなくなった鉛筆の余りがいっぱい入っている。塚本社長は、「当時、父が亡くなった時、このようなガラスの容器が12個も残っていた。長い間考えた末に、ようやくその中に含まれている『刻苦精励』という意味を理解することができた」と語った。おそらくこの家訓もあって、家業を継いですでに40年になる塚本社長は今も毎日朝3時に起床し、5時に出勤する習慣を続けている。

実家が滋賀県の東近江市にある塚本社長は、有名な日本3大商人(近江商人、大阪商人、伊勢商人)の中でも名声が高い近江商人の系譜を引いている。琵琶湖湖畔の五個荘町には、今も近江商人の古い屋敷が当時の姿のまま数多く残されている。地元にある近江商人博物館の中で、深い印象に残った展示内容はそれぞれの特色を持つ「家訓」だった。博物館の解説員はわざわざ家訓の複製品を取り出して見せてくれた。そこには、例えば、「奢者必不久」(奢れる者かならず久しからず)や「先義後利栄,好富施其德」(義を先にし、利を後にすれば栄え、富を好しとし、其の徳を施せ)、「利真於勤」(利は勤むるに於いて真なり)などの文字が書かれていた。実のところ、伝統的な中国の商人にとってもすべてなじみ深い言葉ばかりだ。近江商人全体に伝えられる「家訓」と見られているのが、現地で非常に流行したいわゆる「三方よし」(「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」)という家訓だ。
家族経営企業の第6代目後継者である塚本社長は、「6代にわたる経営者は代々『塚本喜左衛門』という名を名乗っている」と語った。このことからも、継承に対する思いが非常に強いことが見て取れる。塚本社長は、「古代の近江地域は地理的に中国大陸の文化が京都や奈良などに伝わる際に必ず通る道に位置していたことから、近江商人の経営理念の中には、中国文化の影響の痕跡が比較的多く見られる」という見方を示した。

実際に近江商人の経営思考を理解すると、明、清時代に中国で隆盛を誇った山西商人に非常に近いものを感じる。塚本社長は、「近江商人の『三方よし』という経営理念は、客と経営パートナーと社会の要素を強調したもので、実際企業自身の発展や利益の獲得にまぎれもなく役に立っている」と考えているという。よく考えてみると、その理由は非常に簡単だ。「お金を儲けた後、社会にフィードバックして郷里に恩を返すという考え方を持つ企業の経営者は少なくない。しかし、これだけでは不十分だ。三方が共に利益を得るという方法は、初めから同時に体現されなければならない。例えば、自分の家の門の前を掃除する際に、ほうきを外に向けて、ゴミや塵を自分の家以外に向けて掃くというのも一つのやり方だ。ほうきを内に向けてゴミや塵をかき集めて自分で処理するというのも一つのやり方だ。みんなが共同で異なる方法を採れば、結果は大いに異なる」と説明する。
近江商人の家族経営企業の「老舗」の伝承を支えてきたのは、もう一つ非常に独特な「別家制度」にある。簡単にいうと、家族経営企業を支えてきた外から来た優れた奉公人が財産と名前をもらって独立する制度だが、独立後も本家との主従関係は維持される。これらの別家をかまえた中堅奉公人や上級奉公人は定期的に企業の重要事項を決める際の協議の場に呼ばれる。さらには、別家の中でも特に優秀な者は家族経営企業の本家に婿入りし、後世の祭祀を受けるものまでいた。
しかし、現代の産業モデルや経営の潮流の影響の下、家族経営企業が日増しに打撃を受けつつあるのは避けられないことだ。日本であっても、家族経営の老舗企業を維持することは決してたやすいことではない。
本微信号内容均为人民网日文版独家稿件,转载请标注出处。


