著者:世澤律師事務所 董輝、郭添一
022年3月から、上海は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、各種の感染防止措置が実施され、様々な面において上海市民の生活と企業経営活動に影響を及ぼしている。2022年4月2日から4月21日までの期間に、上海高級人民法院は、今回の感染拡大の現状に基づき、2020年の新型コロナウイルス流行初期に発布された「上海市高級人民法院の新型コロナウイルス肺炎流行にかかる事件の法律適用の問題に関する一連の問答」に修正を加えた。2022年版の問答は(一)から(五)まであり、訴訟、刑事、契約、金融、知的財産権、税関等の分野に及ぶ。
その中で、2022年4月10日に「上海市高級人民法院の新型コロナウイルス肺炎流行にかかる事件の法律適用の問題に関する一連の問答(三)」改訂版(以下「新問答三」という。)を発布し、感染症蔓延にかかる契約紛争という注目のトピックについて解答した。本文は、企業経営上の実際のニーズを踏まえ、企業に関連する感染症蔓延にかかる契約問題を解読する。
一、感染症蔓延と感染防止措置は不可抗力と事情変更を構成するか
2020年版の本問答は、感染症蔓延において不可抗力が適用されることを概括的に論じるのみであったのに対し、「新問答三」は、2022年の上海地区の実状と「民法典」の規定を結びつけ、不可抗力と事情変更の概念を区別して、その適用について詳細に分析した。
1. 不可抗力と事情変更の原則
2. 不可抗力と事情変更の原則の感染防止措置に対する適用
不可抗力について、「新問答三」問題2は、まず、「感染症蔓延及び感染防止措置は一般的に法律が規定する不可抗力に属する」ことを明確にした。ここにいう「感染症蔓延及び感染防止措置」とは、2022年3月より上海にて発生している感染症蔓延及び感染防止措置を指すと理解すべきであり、その他の期間(例えば2021年)の感染症蔓延又は感染防止措置が不可抗力を構成するかは、なおも実際の状況を結びつけて、「予見不能、回避不能、克服不能」の条件を満たすかを判断する必要がある。
不可抗力を構成すれば、当然に解除権又は(及び)免責の法的結果が得られるわけではなく、当該不可抗力が個別の契約の目的を実現不能にせしめたか、又は個別の契約の履行を不可能にせしめたかを分析する必要がある。問題2は、前述の分析を行うとき、人民法院は感染症が蔓延し始めた時期、感染拡大期間、重大さの程度、地域範囲等が契約履行に及ぼす実際の影響に基づき、感染防止措置の区分管理における封鎖区、管理区、防備区など、区域別の段階的な封鎖措置の強度、及びその業界、紛争ごとに、人員流動規制の影響を受ける程度等の要素を考慮して、不可抗力としての感染症蔓延又は感染防止措置と契約履行の障害との因果関係を総合的に判断しなければならないことを明確にした。
事情変更について、事情変更の構成要件は「予見不能」、「商業リスクに属さない重大な変化が発生」と「明らかに不公平である」ことである。感染症蔓延と感染防止措置は、一般的に不可抗力を構成するため、予見不能の条件に合致するが、その他の二つの要件を満たすかについては、個別の案件を結びつけて具体的に分析する必要がある。
以下に紹介する感染症蔓延又は感染防止措置により生じる履行遅延、賃料減免、賃貸借契約の解除等は、いずれも不可抗力と事情変更の原則を基礎とした、感染症蔓延期間中によくみられる具体的な紛争類型に対する分析である。
二、感染症蔓延期間の履行遅延の結果
感染防止措置により操業停止、人員隔離、物流規制等が発生し、本来の計画に基づきすみやかに契約を履行できないことは、どの会社にも共通する問題である。「新問答三」は履行遅延に関連する問題について解答した。
1. 感染症蔓延又は感染防止措置により履行遅延が生じたとき、不可抗力を免責事由とすることはできるか?
一、にて述べたとおり、感染防止措置は一般的に不可抗力と認定されるが、免責事由になりうるかについては、個々のケースの「感染症蔓延又は感染防止措置が履行義務に及ぼす具体的な影響」を分析する必要がある。
「新問答三」の問題4は、履行遅延する債務の類型に基づき、非金銭債務と金銭債務に分けて議論している。
非金銭債務の履行について、例えば、貨物売買契約の売主が、感染症蔓延又は感染防止措置により業務再開遅延、隔離措置、政府徴用等の措置を受け、正常に引渡し義務を履行することができないとき、一般的に、不可抗力を理由として、全部又は一部の責任の免除を主張することができる。
金銭給付義務については、感染症蔓延又は感染防止措置は、通常、金銭債務の履行に影響を及ぼさず、一般的には不可抗力をもって責任の減軽又は免除を主張することはできない。「金融市場の取引開始延期等の特殊な状況」のみを例外として挙げた2020年版問答と比べると、「新問答三」は、二度の感染症流行が上海に与えた影響の違いを踏まえて、特殊な状況の列挙範囲を拡大し、「感染防止措置により滞留が発生し支払い条件を満たすことができない、新型コロナウィルス感染による病状が深刻で支払いをすることができない、オンライン振込の上限金額にかかり、期日どおりに支払うことができない」等を不可抗力に基づき責任の減免を主張できる状況として列挙した。
2. 契約の履行が感染症蔓延又は感染防止措置の影響により履行遅延するおそれがある場合、双方当事者はどのように処理すべきか?
履行遅延により影響を受ける者は、感染症蔓延又は感染防止措置の影響により履行遅延が生じる可能性のある遅延者、及び当該履行を受ける相手方の双方当事者が含まれる。
「新問答三」問題3の回答及び「民法典」第590条及び第591条は、遅延者はすみやかに相手方に通知することで、相手方が受ける損失を軽減させなければならず、かつ合理的な期限内に証明を提供する必要があると規定している。相手方は、遅延者から通知を受けた後、すみやかに必要な措置を講じて、損失の拡大を防止しなければならない。
注意を要するのは、当事者双方は、信義誠実の原則に基づき感染症蔓延が契約の履行に及ぼす影響を処理しなければならない。関連する履行遅延が不可抗力の規則適用により免責されるかにかかわらず、前述の遅延者の通知義務及び相手方の損失拡大防止義務は常に存在する。相手方を例にすると、遅延者が履行遅延する債務は不可抗力の免責事由を構成しない金銭債務であることから、遅延者に違約責任を要求することができると認識し、自身の損失拡大を放置した場合、「民法典」第591条第2項に基づき、適切な措置を講じずに損失を拡大させたことにより、拡大分の損失については賠償を請求することができない。
三、感染症蔓延期間の賃貸借関係
感染防止措置は通常の場合、借主の営業収入の減少を引き起こし、借主が期日どおりに満額の賃料を支払うことができない、又は建物を実際に使用していないため賃料の金額について異議が生じる可能性があり、貸主も期日どおりに賃料を受領できないことを理由に、解除権を行使しうる。「新問答三」は関連する紛争の処理ルールについて規定を設けた。以下、商用物件に対する規定のみ紹介する。
1. 借主側の賃料減免等の請求
「新問答三」問題6、「上海市の感染症全力対策企業発展促進支援の若干政策措置」(滬府弁規〔2022〕5号)第(七)条及び2022年4月1日に発布された「上海市国有企業の零細企業及び個人事業主の建物賃料減免の実施細則」[1]を結びつけると、借主が感染症蔓延又は感染防止措置の影響により経営困難となった場合、以下の状況に分けて、異なる政策規定を適用することができる。
前述の賃料に関する政策のほか、上海政府は、非国有建物の貸主が主体的に借主に対し賃料減免することを奨励する。「上海市の感染症全力対策企業発展促進支援の若干政策措置」の中に、非国有建物の借主である実体的な経営主に対し適度に賃料減免するとき、政府は各項助成政策をもって当該貸主を優先的に支持し、かつ不動産税の納付、都市土地使用税の納付が困難であるとき、相応の減免することができると規定した。
2. 貸主側の解除権
「新問答三」問題7は、賃借建物を経営に利用するが、感染症蔓延又は感染防止措置により借主の資金繰りに困難が生じた、又は営業収入が明らかに減少したとき、貸主が借主の賃料支払遅延を理由として、賃貸借契約を解除し、借主に違約責任を負うことを請求したとき、人民法院は支持しないと定めた。
注意を要するのは、「新問答三」は、借主の権益を保護するために、貸主の解除権を一律に否定するわけではない。借主に賃料支払い遅延以外の違約行為がある場合、又は借主が感染症蔓延又は感染防止措置が開始される前から、或いは終了した後も、なおも賃料を支払わない場合、貸主は解除権を行使する基礎を構成する可能性がある。「(2021)滬02民終3527号」判例では、貸主は2020年の感染症蔓延の影響により、借主の2020年3月の1ヶ月分の賃料を免除した前提において、借主が同年7月になおも期日どおりに賃料を支払わないため、人民法院は賃貸借契約の解除を認め、かつ借主に相応の違約責任を負担するよう求める請求を支持した。
四、その他
「新問答三」はさらに、建設工事が感染症蔓延により施工停止となった際の不可抗力に基く免責の主張、請負経営類の契約において、感染症蔓延により収入が激減したことを理由に事情変更の原則を主張する権利について説明した。
このほか、感染症蔓延期間の高額取引行為については、原則として当事者の私的自治を支持すると明確にしたものの、感染症蔓延期間は、基本的な民生商品、感染症対策用品等の物資の価格が吊り上がり、経済秩序が混乱する状況にあり、価格条項の無効を確認した。詐欺・脅迫、偽造・粗悪品の販売等の違法行為についても、関連する法律に基づき処罰することを明確にした。
五、総括
上記を総括すると、上海市高級人民法院は、改訂版「新問答三」において、主に感染症蔓延及び感染防止措置に対する不可抗力及び事情変更の原則の適用を基礎として、感染症蔓延にかかる契約関連紛争について解答した。
「新問答三」は、“契約順守、発展促進”及び“リスクの共同負担、利益のバランス”という感染症蔓延にかかる契約事件の裁判理念を強調した。すなわち、不可抗力と事情変更の原則を適用するかどうかにかかわらず、企業は契約当事者として信義誠実の基本原則に基づき、感染症蔓延にかかる事項を処理しなければならず、合法、合理的であることを前提に、予見不能な感染症流行のリスクを共同負担すべきである。各当事者が力を合わせて、この難局を乗り越えることが望まれる。
注記:
声 明
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